石川県土地改良事業団体連合会 水土里ネットいしかわ

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棚田

 農林水産省の調査によると、日本全国の700余の市町村に約22万1,000haの棚田(傾斜地1/20以上)が存在していますが、農村が直面する過疎化や高齢化の進行、耕作放棄地の増大の中で、日本の財産ともいうべきこの棚田が崩壊の危機に瀕しており、1993年だけで全体の16%、約36,000haが姿を消しています。

 棚田とは、急な傾斜地に階段状に設けられた水田を指し、傾斜地が急であればあるほど狭い区画の水田となります。山地の多い我が国では、2千年も前から急な山肌に、日本のピラミッドにも例えられる棚田を築いていました。地すべり地帯に多く見られ、水もちがよくなければならないことから、その保全には大変な努力が必要とされてきました。

 まさに棚田は先人達の汗と知恵の結晶で、日本農業の原点であり、文化遺産として今日まで絶えることなく水を湛え、洪水を防ぎ、稔りある収穫を迎えて、人々の心に潤いを与えてきたといえるでしょう。

 その意味で棚田の存続の危機は、現在の中山間地域の衰退を象徴すると言えるのです。

 UR対策見直し関連事項の一つとしても棚田の保全対策があげられており、農林水産省が10年度新規事業として打ち出した棚田地域等保全対策では、その地区その地区に適した保全プランを策定したり、多様な地域状況に対応したきめ細かい保全対策の実施が考えられています。また、棚田地域水と土保全基金を造成し、そのなかで、集落組織等による棚田の保全活動への資材などの持続的支援、寄付金受入れやボランティアなどといった市民も巻き込んだ体制づくりを盛り込んだ保全対策を考えています。

 この他、本県輪島市の千枚田では、農作業ボランティアが見られたり、全国の状況をみても、インターネットを利用した棚田のオーナー募集など、山村に対する理解を深めてもらう企画に力が注がれています。

 いま棚田が抱えている問題は、現在の中山間地域が抱える問題そのもので、保存活動は、その背景にある中山間地域の問題を改めて浮き彫りにしています。若い力が流出し、過疎化がますます深刻な問題になっているこの地域において、まさに農業と景観が一体となった対策が必要とされています。

 我が国独特の伝統文化を育むうえで欠かせなかった中山間地域での営み。そして、その象徴とも言える美しい棚田の眺め。一度失ってしまえば、もう元にもどすことはできません。このことを念頭に置き、中山間地域の立て直しに全力を挙げて取り組まなければならないのではないでしょうか。

(機関誌 平成9年12月号より)