石川県土地改良事業団体連合会 水土里ネットいしかわ

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デカップリング

 デカップリングとは、もともと「切り離す」という意味をもった言葉で、ここでは農業生産との関係を切り離した農業政策のことを言っています。

 最初に提案されたのは、アメリカの1985年農業法の審議の過程においてで、「アメリカの農政の基幹は価格支持計画と不足払いによる所得補償がカップル(連結)になっているため、生産者は過剰在庫を無視して生産を続けているが、供給過剰を根本的に解決するためには、これらの連結を分離(de)しなければならない」という主旨のものでした。

 最近では、EC(現在のEU)の行っているデカップリング政策が注目を集めており、その例を参考に取り上げてみると、まず第一に、価格支持引き下げに伴う直接所得補償があります。ECは、食料の増産と農家の所得向上を目的として農産物の価格支持を行ってきましたが、1980年代になると世界的に農産物の生産が過剰となり、価格支持に伴う各国の財政負担の増大が問題となってきました。

 このため、1992年の共通農業政策により、農産物の支持価格の大幅引き下げ(穀物の指標価格を3年間で29%引き下げ)と生産調整の実施(農地面積の15%以上の休耕)にふみきりました。これに伴う直接所得補償として、休耕補償、環境保全農法への助成、農地の林地への転換補償などを実施しています。

 第二として、経済発展にとり残された山間部など条件不利地域への直接所得助成を行っており、農家の減少や自然環境の悪化をくい止め、豊かな農村風景の保全を図ることを目的としていることから、各国の都市住民からも高い支持を得て実施されています。

 この「EU型デカップリング」を日本に導入するという動きもみられますが、地域全体の活性化や定住促進に効果があるのか、また、国民的な合意形成ができるのかといったことが懸念され、その進展は足踏み状態となっています。

 以上のことから、直接所得補償を中心としたEU型デカップリングの日本導入は新たな農業基本法制定の中で議論されていますが、国土保全・環境保全など、中山間地域の農業・農村を守るためには、何らかの対策が必要と考えられます。

 このような状況にあって、「日本型デカップリング」とも言える取り組みがすでに始まっています。「ふるさと水と土保全対策」がそれで、ため池、用水路などのを地域住民活動と連携して保全・整備していこうという制度です。そして、平成10年度からは「棚田地域水と土保全資金」が新たに創設され、地域による棚田の保全活動や技術指導者の育成などが考えられています。さらに都市住民の資金の提供やボランティア活動を積極的に受入れ、市民参加の輪を広げようとしているのも新しい試みです。

 このように、現在の農業農村を維持していくためには、地域住民のみでなく都市住民も一体となった取り組みが必要とされており、今後の展開が期待されます。

(機関誌 平成10年4月号より)