石川県土地改良事業団体連合会 水土里ネットいしかわ

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田園都市

 19世紀中頃の産業革命によって、イギリス中心部の都市ロンドンに世界の富と情報が集積する一方、農村部から多くの人口が集中し、スプロール化現象(無秩序な拡大)が起きました。

 1801年のロンドンの人口は100万人で、多くは都市から3キロメートル以内の狭い地域に住んでいましたが、1851年には人口が2倍となり、なお人々は5キロメートル以内に居住していたので、異常な過密を引き起こしてしまいました。

 このような状況を部分的な対症療法ではなく、計画性を持った「都市計画」として改善しようとしたものが、「田園都市」の構想です。

 これは、19世紀末にイギリスの社会改革者エベネザー・ハワードが提唱したもので、ロンドンの過密解消のために、都心部から郊外の田園地帯に人口と職場を分散させた構造で、いわゆる都市と農村の融合、ハワードの言葉で言うと、両者の“結婚”を目指すものです。具体的には都市の中にもう一度「農村」の持つ魅力、例えば美しい自然やアメニティのある町並みを取り戻し、その上都市としての魅力や刺激も備えているということなのです。

 田園都市の定義は、健康的な生活と産業のために設計され、かつ社会生活を十二分に営むことのできる大きさの町づくりとなりますが、その構造は街を円形に見立て、まず中心部に図書館・劇場・病院などのコミュニティー施設があり、外へ伸びる幹線道路をたどって行くと住宅地が広がっている。そしてさらに歩いていくと、学校・教会があり、その外環には工場・倉庫などを配しており、さらに町全体を取り囲むように村落地帯が広がっているというものです。

 日本では、明治40年(1907)に内務省地方局から発行された「田園都市」の中で初めて紹介され、“花園農村”、“新都市”などと呼ばれていました。この中では、都市と農村の結婚も“共存”と解釈され、ハワードの指すものと少し異なったとらえ方をしていたようです。

 現在、我が国では、国土利用計画法に基づいて総合的かつ計画的な土地利用を図ることを目指していますが、都市の急成長に伴って失われてきた緑や水辺の潤いを保全し、かつ地球環境問題や高齢化などにも対応できる理想的な居住空間を生み出すことが必要となっています。 21世紀に向けて、ハワードの言う田園都市の実現が期待されます。

(機関誌 平成12年5月号より)